The Okinawa Herpetological Society
沖縄両生爬虫類研究会

会誌AKAMATA

琉球の両生爬虫類


琉球の範囲と区分

本研究会の名称は「沖縄両生爬虫類研究会」ですが,その活動の範囲は沖縄県に留まらず,琉球列島地域全域におよんでいます.とはいっても,例えば「琉球列島」という語自体,どの範囲を指すのか必ずしも明確ではありませんが、当研究会では以下のように取り扱っています.

1).琉球および島嶼群の名称

動物学の分野では,琉球列島を,九州と台湾の間,およそ1,200 kmに渡って続く弧状列島全体を指すのが一般的になっています.この弧状列島と少し外れたところに大東諸島と尖閣諸島があります.これらの島々は海底の地勢や成因も異なるため,厳密にいえば「琉球列島」には含めないのが一般的です.しかし,両生爬虫類についてみると,これらの諸島にも弧状列島のものと関係の深い種が少なくないため,本研究会ではこれらの諸島の種も含めて,研究・情報交換の対象としています.

19世紀からはじまる琉球からの新種記載,そしてStejneger (1907),Okada (1931)と主要な文献で「琉球」という語が使われてきました.また,琉球列島に大東諸島や尖閣諸島も含めた研究には高良(1962)があります.以上,これまでの研究史等を踏まえ,本サイトでは,特にことわりがない無い限り弧状列島の部分を「琉球列島」と呼び,大東と尖閣までを含む場合は「琉球」と暫定的に呼ぶことにします.

2).琉球の区分

琉球の範囲と区分琉球の島々は,その地理的なまとまりの面から,8つの諸島に区分されます.弧状列島の部分は,北から順に,大隅諸島,トカラ諸島,奄美諸島,沖縄諸島,宮古諸島,八重山諸島の6つに区分され,これに大東諸島と尖閣諸島を加えて合計8つです.このほか,沖縄島南部の西方沖にある,とりわけ多くの島が密集した地域を慶良間諸島(あるいは,慶良間列島)と呼びますが,これは上記8つの諸島と並列のものではなく,沖縄諸島の一部です.また,宮古諸島と八重山諸島を併せて先島諸島という言い方があります.一方,大隅諸島の西方には,宇治群島,草垣群島があり,さらにその北には甑島列島がありますが,これらの島々は「琉球」には含めません(本サイトは概ね高良[1962]を基本としています).

3).琉球列島の区分

一般に,「琉球列島の両生爬虫類相は日本本土のそれとは著しく異なる」といわれます.それは屋久島・種子島と奄美大島との間に動物相のギャップがあるためで,そのギャップは,東京帝国大学の動物学者,渡瀬庄三郎博士の名をとって「渡瀬線」と呼ばれています.より詳しく見ると,両生爬虫類相のギャップは,列島を寸断する海峡のなかでも最も古くに成立したものの一つとされるトカラ構造海峡(トカラ諸島の悪石島と小島・小宝島との間)に一致することが示されており,この海峡の存在によって,両生爬虫類をはじめとする陸生動物の移動・分散が厳しく制限されてきたことを反映していると考えられています(Hikida et al, 1992).とはいえ,この海峡を超えて分散を果たしたと思われる種が存在するのも事実で,実際には,多くの動物群において,トカラ諸島や大隅諸島のあたりに動物相の移行帯が見られます.

琉球列島にはもう一カ所,宮古諸島と沖縄諸島の間にも明確な動物相のギャップがあり,蜂須賀線と呼ばれています.このように,動物地理学的な視点からみると,琉球列島は渡瀬線と蜂須賀線を境に3つの地域に区分することができ,それぞれ北から順に「北琉球」「中琉球」「南琉球」と呼ばれ,陸生動物の分布を理解するベースとなっています.

文献

Hikida, T., H. Ota, and M. Toyama(1992)Herpetofauna of an encounter 
  zone of Oriental and Palearctic Elements: amphibians and reptiles 
  of the Tokara Group and adjacent Islands in the Northern Ryukyus, 
  Japan. The Biological Magazine Okinawa, 30:29-43.
Okada, Y. (1931) The Tailless Batrachians of the Japanese Empire. 
  Imperial Agricultural Experiment Station, Tokyo, 215p. 
Stejneger, L. (1907) Herpetology of Japan and adjacent territory. 
  United States Natinal Museum Bulletin, 58: 1-577.
高良鉄夫(1962)琉球列島における陸棲蛇類の研究.琉球大学農家政工学部
  学術報告,9: 1-202.